これからの大学入試に必要な能力(2021年度入試改革 第2回)
第2回の今回は、将来的にどのような傾向の入試問題が導入され、受験生はどのような能力が求められるようになるのかを確認してみたいと思います。
突然ですが
「1台のバスにゴルフボールは何個入るでしょう?」
と聞かれてなんと答えますか?
嘘か本当か分かりませんが、以前ネット上で某一流企業の入社試験の問題として紹介されていた設問です。仮に嘘だったとしても十分にあり得そうな問題だと私は考えています。
さて、このような一見無茶な問いにどのように答えることができるでしょうか。
バスは小型?大型?とか色々なことが頭の中を駆け巡る人もいるかもしれませんね。
少々粗い言い方になりますが、このような問いに答えられる人材が、政府が入試改革を通して育てようとしている人材とも言えるかもしれません。
企業の入社試験と大学の入学試験を簡単に繋げてはいけませんが、第1回で見たように、入試改革はそもそも産業界からの要請に端を発しています。
ということは、入社試験である「バス・ゴルフボール問題」も入試改革で必要になるスキルのヒントにはなるかもしれません。
事実、似たような問題が大学入試でも少しずつ見られるようになってきています。
では、入試問題がどのように変化するかという話の前に、具体的にどのような「能力」が入試改革を通して育成・評価されようとしているのか確認してみましょう。
第1回では漠然と「自分で考えて創り出す力」と勝手に呼んでいましたが、当然政府主導でやっているこの改革には多くの資料やマニュアル類が公表されおり、定義づけがされています。
下記画像は文部科学省のHPで見ることができる高大接続システム改革会議での配布資料です。
受験生のどのような能力を、どのような試験で測定しようとしているのか。
ポイントは横軸の「A→B→C」の段階的な内容変化の部分を理解することです。
(首都圏模試センターHPより)
A:知識・理解
これは従来の日本の教育にあるような、いわゆる暗記系の勉強部分が相当します。
広く正しい知識をインプットしてこそ高度なアウトプットができるわけですから、もちろん必要な能力です。
試験で言えば従来のセンター試験のようなマーク式(選択式)問題で測ることができる力です。
B:応用・論理(論理的思考)
読んで字のごとくですが、Aでインプットした知識を応用的に使うことができる能力を指しています。自分の中で法則を見つけたり、論理的に知識を体系立てて使用したりすることができる能力です。
これはマーク式の問題で測ることは難しく、試験で言えば記述式の問題で、ある程度回答者の思考内容を引き出す工夫が必要になります。
C:批判・創造(クリティカルシンキング・クリエイティブシンキング)
Bよりもさらに発展的な力です。
視点を変えたらどうなるだろうか、そういう論理ならこういうことにもなり得るのではないか、自分ならこういう考え方をするなどと「自分独自の考えを持ち、表現できる力」です。
この力を測るには表にあるように自由に考えを表現させる小論文形式の試験をするか、面接試験をするしかないでしょう。
さて、第1回から読んでくださった方はもうお気づきかと思いますが、日本のこれまでの教育はA、良くてB程度で止まっていたと言えます。
図表を見れば分かるように、現状のセンター試験で測定できる能力はAの領域にすっぽり収まってしまい、Bにも達していません。
しかしこれからの時代のグローバル人材は「C」の力までが必要不可欠なのです。
繰り返しになりますが、AからBにかけての領域の仕事はAIなどの機械に取って代わられます。
だから入試改革なのです。
センター試験は2020年度から「大学入学共通テスト」に生まれ変わります。
そのタイミングで記述式の試験問題などを取り入れ、図表のオレンジ部分のようにA・Bの領域にまたがった能力を判定できるテストにすることが発表されています。
そしてC領域の能力測定については各大学の一般入試に委ねます。つまり優秀な(C領域の素養をもった)学生を見抜いて確保するため、各大学が入試問題に工夫を凝らすようになっていくのです。
実際どの程度のスピードで各大学の入試問題が変化していくかは私もまだ分かりません。
例えばCの能力を測る小論文は採点に労力を要し、面接やグループディスカッションも時間と手間がかかります。
そのような現実的な問題と折り合いをつけながら、大学側は改革を進めているアピールを政府側にしていくことでしょう。
しかし遅かれ早かれA領域だけの対策をしていれば間に合っていた受験に関して、B・Cへの対策が必要になってくることは間違いありません。
アクティブラーニングを採用する高校が増え、AO入試や小論文対策の予備校が増えてきているのは、この時流を捉えてのことでしょう。
これからの受験生はC領域(クリティカル・クリエイティブ)の力をつける手立てを考えなければ、SGUのような恵まれた環境のある大学に入学することはできず、またその先優秀なグローバル人材として世界で活躍することもできなくなってしまうのです。
では、今からできる準備には何があるのか。
第3回ではもう少し細かい改革内容や英語の入試改革について説明していきます。
最後に...冒頭の「バス・ゴルフボール問題」はただの荒唐無稽な問いだったのでしょうか?
この企業は「〇〇個入る」という正確な数値を求めているわけではないはずです。
私にはこの企業が学生に「A→B→Cの力をフル活用して自分独自の考えをひねり出せ
るところを見せてくれ」と問いかけているように思えます。
既にビジネス界の一部ではC領域の能力が必要とされていることは間違いないようです。